カップブラシ
カップブラシとは、金属製のカップに毛(ワイヤーやナイロン)を取り付けた回転式の研磨工具です。回転すると毛が外側に開き、先端が被削材の表面に当たることで、錆や塗膜の除去、バリ取り、表面仕上げなどの処理を行います。
カップブラシの役割と特徴
カップブラシは、製造工程における表面処理の様々な段階で活躍します。材料の素地を整える下準備として、古い塗膜や錆、溶接後のスケール(酸化膜)といった不要物を除去します。また、切削やプレス加工で発生したバリを取り除くことで、部品の安全性や精度を確保する役割も担います。
中でも特に重要なのが、精密仕上げの品質を左右する「前処理」としての役割です。バフ研磨や電解研磨といった高度な仕上げの前段階で、カップブラシを使って表面の粗さを均一に整え、微細な汚染物を除去します。この前処理が不十分だと、最終的な鏡面やサニタリー性(衛生性)を確保できないため、適切な選定と使用は、製品の最終品質に直結します。
狭い面・不規則面への適用性
カップ形状により接触範囲を狭く制御でき、複雑形状部品の内角、鋳物の細部、溶接部(継ぎ目)の周辺など、ディスク型工具が当てにくい箇所で効率を発揮します。手作業のバラつきを抑制し、ロボットアームによる自動研磨でも多様な設置角度に対応できるため、自動化の価値を高めます。
動作原理
回転数、毛の長さ、毛の硬さで研磨力が決まります。一般にワイヤーが硬いほど研磨力は高まり、切込み感が強くなります。
カップブラシの種類
毛のまとめ方による違い
| 種類 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| ノット型 | 複数のワイヤーをねじって束ねた高密度な構造。先端の研磨力が強いが、被削材に傷を付けやすい傾向がある。 | 厚い塗膜の剥離、大きなバリの除去など |
| クリンプ型 | ワイヤーを波状に加工し均一に配置した柔軟な構造。傷を付けにくく、均一な仕上がりを得やすい。 | 中程度の錆落とし、仕上げ前の予備研磨など |
取り付け方による違い
| 種類 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| ねじ込みタイプ | 角度グラインダーに直接固定。芯ブレが少なく安定。外径が大きく、高回転・強めの作業向き。 | 広い面の錆落とし、塗装剥離など |
| 軸付きタイプ(シャンク) | ドリルやエアグラインダーのチャックで固定。取り回しが良く、狭所や曲面の細かな作業向き。 | 細部のバリ取り、角部や複雑形状の外面清掃など |
毛材(フィラメント)による違い
| 毛材 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 炭素鋼(スチール) | 研磨力と経済性に優れる。ステンレスへの使用はもらい錆に注意。 | 一般的な錆落とし、塗装剥離 |
| ステンレス | 耐食性と非汚染性に優れる。 | 食品・医療分野の設備メンテナンス、ステンレス製品の仕上げ |
| 真鍮・銅 | 当たりがソフトで、火花の発生を抑制できる。 | 非鉄金属の清掃、火花を避けたい環境での作業 |
| ナイロン | 砥粒なし。被削材に傷を付けない。 | デリケートな表面の洗浄、軽い汚れ落とし |
| 砥粒入りナイロン | 柔軟性と研磨力を両立。スクラッチを抑えつつ研磨可能。 | 精密部品のバリ取り、金型磨き、アルミ製品の表面仕上げ |