合金鋼
合金鋼とは、鋼に炭素以外の元素を添加し、特定の機械的特性や物理的特性を向上させた鋼材の総称です。
炭素の含有量が増えると硬度や強度は向上しますが、延性や靭性は低下する傾向があり、これを補うために様々な元素が添加されます。
代表的な合金鋼には、耐食性に優れるステンレス鋼、耐摩耗性が高いクロム鋼、高温強度や耐クリープ性を持つモリブデン鋼などがあります。合金鋼は優れた機械的特性や耐摩耗性を目的として製造されますが、その一方で加工が難しく、多くが難削材に分類されます。
合金鋼の分類
合金鋼は鋼に元素を添加した鋼材の総称であるため、JIS G 4404で規定される合金工具鋼やJIS G 4053で規定される機械構造用合金鋼鋼材、JIS G 4403で規定される高速度工具鋼などが含まれます。
機械構造用合金鋼鋼材は炭素含有量が低く、低炭素鋼~中炭素鋼に分類されます。また添加元素の量も低くなっています。一方、合金工具鋼や高速度工具鋼は炭素や他の元素の含有量は高くなっています。
代表的な合金鋼
合金鋼の種類 | 特徴 |
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ステンレス鋼 | ステンレス鋼は鋼にクロムやニッケルなどを主成分として添加した合金鋼の総称です。優れた耐食性を持ち、様々な分野で広く使われています。 ステンレスはクロムを添加したクロム系と、更にニッケルを添加したニッケル系に大別されます。それぞれフェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレスとも呼びます。 「錆びない」という意味のステンレスですが、その特性はクロムとニッケルによるものです。 |
ニッケル鋼 | ニッケル鋼は鋼にニッケルを主成分として添加した合金鋼の総称です。延性と靭性に優れ、また炭素鋼の弱点の一つである低温での脆性が改善されます。 ステンレスが有名ですが、9%Ni鋼と言われる、ニッケルを9%添加した合金鋼もよく知られています。 9%Ni鋼は低温での機械的性質(硬さ、強度、延性、靭性など)が優れており、-162℃の超低温ガスであるLNGのタンクにも用いられています。 通常、炭素鋼は常温の場合体心立方格子構造ですが、ニッケルを多く(8%以上)添加することで面心立方格子構造に変化し、様々な特性を得ることになります。 |
モリブデン鋼 | モリブデン鋼は鋼にモリブデンを主成分として添加した合金鋼の総称です。クロモリとして知られるクロムモリブデン鋼が特に有名です。 溶接が容易でありながら強度や耐摩耗性に優れているため、自転車や自動車のフレームおよび部品など、幅広く使われています。また耐食性のあるクロムも含んでいるため、ステンレスほどではありませんがサビに強い鋼材と言えます。 |
マンガン鋼 | マンガン鋼は鋼にマンガンを主成分として添加した合金鋼の総称です。低マンガン鋼と高マンガン鋼に分けることができ、低マンガン鋼は張力に優れているため橋梁などに、高マンガン鋼は耐摩耗性と耐衝撃性に優れているため鉄道のレールや鉱山機械などに用いられます。 またマンガンはニッケルと同様に面心立方格子構造の元素であるため、高マンガン鋼もまた面心立方格子構造を持ちます。 高マンガン鋼はハイマンガンとも呼ばれます。 |
バナジウム鋼 | バナジウム鋼は鋼にバナジウムを主成分として添加した合金鋼の総称です。硬度、靭性、耐摩耗性、耐食性などの機械的性質に優れるのが特徴です。 バナジウム鋼にさらに別の元素を添加し、クロムバナジウム鋼やモリブデンバナジウム鋼として用いられるケースも多くあります。 |
タングステン鋼 | タングステン鋼は鋼にタングステンを主成分として添加した合金鋼の総称です。非常に高い硬度と金属の中で最も高い融点が特徴です。 切削工具や金型などから半導体の配線まで多くの分野で使用されていますが、加工がトップクラスに難しいのも特徴です。高速度鋼(HSS)や超硬合金の一部としても使用されます。 |
コバルト鋼 | コバルト鋼は耐食性や耐摩耗性に優れており、包丁やハサミなどに用いられます。コバルトはレアメタルであるため、ステンレス包丁よりは概ね高価となります。 |