クライオジェニック研削
クライオジェニック研削とは、極低温の冷却剤で研削点を直接冷却し、加工中の熱影響を抑える研削方法です。研削点に液体窒素(LN2)や液化二酸化炭素(CO2スノー)などの極低温流体を直接供給し、加工中に発生する熱を素早く除去しながら行います。
特徴
研削は発熱が大きく、研削焼けや白層、残留引張応力、砥石の目詰まりなど熱による問題が生じやすい加工です。極低温流体を研削点に適切に当てると上記の問題を抑えることができ、面の状態と寸法の安定、砥石の切れ味維持が期待できます。
仕組み
極低温の冷却剤を当てると、その場で気体に変わって熱を奪います。温度が下がることで、材料の付着が減り、材料によっては冷えて少しもろくなって削りくずが細かく切れやすくなり、力や熱の増え方を抑えられる場合があります。反対に、冷却剤の当て方が悪いと狙った場所に届かず効果が出ません。どこからどう当てるか、ノズルの形や向き、勢い(速度)と量の設定が重要です。
砥石と形状
材質としては、焼入れ鋼や工具鋼などの高硬度材にはCBN、超硬合金・セラミックス・ガラスなどの硬脆材にはダイヤモンドが用いられることが多いです。結合は形状保持と熱安定性の観点からビトリファイド(セラミック結合)がよく選ばれ、目的に応じてレジノイドや金属ボンドも用いられます。一般鋼の粗〜中仕上げではアルミナ系、非鉄や脆性材ではSiC系を用いる選定もあり、低温冷却の効果は難削材で相対的に現れやすいとされます。
形状は加工法に依存し、平面研削では平形やカップ形、円筒・内面では円筒形やプロファイル砥石など通常の選定指針に準じます。クライオジェニック特有の必須形状があるわけではなく、冷却剤を狙った場所に当てやすいこと(ノズルが当てやすい面、遮る部分の少ない外周形状)が実務上重要です。構造面では、気孔や砥粒の間隔を適切にとり、冷却剤が砥石のすき間まで入り込みやすくして目詰まりを抑える考え方が一般的です。
適用例
難削材や表面の品質が重要な部品で採用例が見られます。代表例として、ニッケル基超合金やチタン合金の航空機部品(タービン翼・ディスク等)、高硬度の焼入れ鋼による歯車・軸受部品、金型の高精度仕上げ、医療用インプラントの仕上げ研削などが挙げられます。硬脆材への適用では、CBNやダイヤモンドといった砥粒種、結合度や切込み量の選定と組み合わせて条件検証が必要です。
他方式との関係
水溶性クーラントや高圧クーラント、MQLなどの手段と排他的ではありません。熱影響が強く現れる条件・材質において冷却を強化したい場合の選択肢として位置づけられ、MQLと液体窒素を併用し、潤滑と冷却を分担させる構成もあります。
導入の注意
極低温流体の取り扱いには凍傷や酸素欠乏のリスクが伴います。供給設備はデュワー、断熱配管、バルブ・ノズル群で構成され、防露・霜付対策や漏えい防止が重要です。設備費と供給コストが発生するため、品質改善や工具寿命、歩留まり、生産性などの効果を実測し、工程全体での妥当性を評価して導入可否を決定します。